2007年04月21日

Judge's overspeaking

司法のしゃべりすぎ 井上薫 著

この本の著者である井上判事は、こういった司法批判の本を書きすぎて、最近、裁判官を首になった。つまり裁判官のしゃべりすぎというか、ほんとのことを公に正直に書きすぎて、官僚体制から当然のごとくに排斥された人だ。
なんとも裁判官とは思えないほどに正直な人物なのである。やはりというべきか、井上判事は、もともと理系の人で東大の理学部を出ている。
#東大の法学部を出たような人間では、まずこういったことはしないだろう。

理系の訓練を積んだ人間からすれば、日本の司法官僚制度のナンセンスさが耐えがたいものだったに違いない。
官僚による正直な内部批判としては、「お役所の掟」シリーズを書いた宮本さんというのもいたが、それと少し似ている。
彼らは、官僚の立場で、正直かつ軽妙な内部批判をしたわけだが、それによって自分が当然に排斥されるということに思い至らなかったのだろうか。井上(元)判事は、法理論を述べているから自分の批判は中立だと思っていたのだろうか?
それとも、首になることを覚悟した告発だったのだろうか。おそらく前者だろう。だが、こういうまぬけ?な正直さは非常に貴重だ。

判事のしゃべりすぎは、プライベートの範囲では本来歓迎すべきものだ。あのポズナーも、自分のBlogで自由闊達に自らの意見を開陳している。そこに政治的な判断で発言を控えたりといった配慮はほとんどしていないと思われる。
だが、日本の司法官僚制度ではそういうわけにはいかないということだ。井上判事の批判は権威を重んじる司法権力への挑戦とでも受け止められたのであろう。

しかし司法の権威ということでは、アメリカの判事の方が日本の判事=司法官僚よりも圧倒的に高い。
それは、アメリカの司法制度の方が、日本の司法制度よりもはるかに社会的な有用性の高いことが社会的に認知されているという証拠でもある。

井上判事の主張はとどのつまり、実定法の解釈者でしかない判事は、実定法どおりの規則に則った行動しかしてはならないということだ。判決の理由欄に判決と関係のない見解を開陳することは温情的なようでいて実は弊害のほうが大きいということを言っているだけだ。

井上判事は、このような軽妙な本を書くくらいだから、自分も書こうと思えばいくらでも判決理由に蛇足を書くことはできたろう。だが、理系的な実直さから、それが偽善であり間違いだと確信していたわけだ。司法権力が不用意にまたは政治的に書きくわえる判決理由の中の蛇足は拡大解釈され、司法に対して過剰な政治権力までも与える危険性があるのは井上判事が指摘する通り事実だろう。

これがコモンロー的な世界であれば違う。コモンロー判事であれば、自分の法理となる正義を開陳することは自由であり、また推奨もされるだろう。アメリカの判決文ではそれゆえに格調高い名文の判決文が多くある。
だが、大陸法のPositivismは、そのようなルールはもとよりないのであって、判事といえでも司法官僚の行動には制限が規定され大きな限界がある。それはPositivismの限界であり、そこに判事自身が大きな窮屈さを感じているから、慣行的に日本の判事は蛇足を書きつづけてきたのに違いない。

”良心的”な判事は、パターナルな”配慮”から、被告を諭すようなこともいうわけだが、これも圧倒的に非力な個人と、巨大な権力とを同じ立場にたたせ、正義の秤にかけるという裁判の趣旨からすれば間違っている。例えば、ホリエモンの事件でも子供を諭すようなことを判事が言っていたようだが(判決理由の中ではないかもしれないが)、有罪が確定したわけでもない被告に対して国家権力を象徴する判事が言うべきことではない。

日本の司法は、司法官僚の裁量によって時に温情的なようでいて、実は、正義とは別な論理にすぎない実定法という冷酷なルールのみに従っているという事実を蛇足を加えることで誤魔化し、隠蔽しているわけだ。
井上元判事の主張はいわば極端な実定法主義であるが、実定法に極端と中庸の違いはなく、実定法主義をとる限り条文の解釈に終始する”極端”なものとなるだろう。つまり実定法主義=Legal Positivismに従うかぎり、井上元判事の主張が正しい。この司法に対する制約は憲法の命じるところであるから、それを無視し否定した司法の行動は日本の司法システムそのものの自己否定に等しい。

そもそも司法官僚と行政官僚はともに公務員官僚であり、その彼らの身分が彼らの思考と行動様式を規定、限定しているのだ。

posted by libertarian at 18:24| Comment(0) | TrackBack(0) | Law | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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