2016年08月22日

帝都の面影を捨てた街

東京の建築を通して一九世紀の終わりから今に至るまでの変遷を見てみると興味深い。

日本の建築は、モダニズム一期として大体1894−1904の明治期に生まれた名建築家達がいて、吉田五十八(1894-1994),前川國男(1905-1986)、坂倉準三(1901-1969)、谷口吉郎(1904-1979)、吉村順三(1908-1997)といった建築家が有名だ。
前川、坂倉、吉村は、コルビュジェに師事しているので、日本のモダニズムにおけるコルビュジェの影響の大きさが伺える。
これと同時期の世界のモダニズム建築家には、ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969),ウォルターグロピウス(1883-1969),コルビュジェ(1887-1965),リートフェルト(1888-1964)がいる。
これより少し早いのが、フランク・ロイド・ライト(1867-1959)か。ただし、ライトはこれらモダニズム建築家とは一線を画している。ライトの弟子のアントニン レーモンド(1888-1976)は日本に長く住んで、前川や吉村の先生でもあったので、フランク・ロイド・ライトーレーモンドの影響もモダニズム1期は大きく受けていて建築に艶やかさがある。

このモダニズム1期の建築家の代表作の多くは戦後の1960年代に作られたものだ。
そして先に書いたとおり、これら日本のモダニズム建築1期の名建築が50年経って、今取り壊しの危機にある。

このモダニズム1期世代の建築家の中で吉田五十八はやや年が離れているが、吉田五十八の存在は非常によい影響を与えている。
吉田は欧米に建築を若いころに見に行って、モダニズム建築に幻滅し、旧いルネサンス建築やゴシック建築に圧倒される。この感覚は私がヨーロッパに最初に行った時に感じたものと同じだろう。これは誰もがそう感じただろう普通の感覚だ。そして思ったこともやはり日本には京都や奈良があるというところだった。そして吉田五十八はモダニズムを融合させた新数寄屋様式を打ち立てた。
そしてブルーノ・タウトがナチスを逃れて日本に来ていた頃(1933)、日本の桂離宮などのモダンさに驚嘆し絶賛し世界に広めた。これにより吉田五十八の新数寄屋建築が脚光を浴びた。
吉田に続く、1期の建築家たちは日本の伝統建築の中にモダニズムを見出そうとしていたように思う。

モダニズム2期としては、丹下健三(1913−2005)を筆頭ボスとして、槇文彦(1928−),黒川紀章(1934-2007),磯崎新(1931−)といった建築家が続き、さらに安藤忠雄(1941-),伊東豊雄(1941-)がモダニズム2期の最後のスター建築家だろう。
丹下健三は、1期に近い2期の大ボスといった存在だったのだろう。

そして、長いデフレを経て、隈研吾(1954-),坂茂(1957-),妹島和世(SANAA)(1956-)というモダニズム第3期世代が活躍しているのが今の段階。

私の好きな建築はモダニズム1期までだ。2期以降はどんどんダメになっているというのが私の趣味的主観である。もちろん、悪くはないし、ぱっとみは良いのだが、味わいに欠けているし、長い年月を持ちこたえる建築として最初から設計されていないと思われる。安藤忠雄の建築であっても、シンプルなようでオーバーデザインだと感じる。

だが、実はモダニズム1期が登場する以前に帝都東京を帝都たらしめた重厚な建築群があった。
それらの多くは戦争で破壊されただろうが、戦後まではまだ残っていた。だから1950年代までは東京はまだ帝都の面影を強く残していたのだろう。
それらの多くは設計者の名前も定かで無いものが多い。
ある意味、この帝都建築こそがモダニズムによる攻撃で権威主義の塊として否定されたものであろう。そしてここ10年−20年位の間にそれらの殆どが跡形もなく壊されてしまった。あの九段会館も今年、壊されてしまった。

モダニズムの合理主義は、社会主義思想と共に起こっているので、それらとの関係性は面白いテーマである。
私の印象ではモダニズム2期の建築家たちは社会主義思想の影響を強く受けている。これは時代的なものである。当時はインテリ=左翼だったのだから。隈研吾の本など読むと、3期の人もそうなのかもしれない。
3期の当世人気建築家たちは、”環境”などというジャーゴンを売り文句にしているところも、実に眉唾ものであり、流行の言葉に乗っているだけで非常に薄っぺらいと思う。

欧米はパリにしてもロンドンにしても、プラハにしても、帝都の面影を残す重厚なクラッシク建築が沢山保存されている。日本は、帝都の面影を伝える建築群が盛大に取り壊されてしまったのである。
まことに勿体無いし、失ったものはあまりに大きい。


posted by libertarian at 19:19| 東京 ☔| et cetera | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする